珍品を見つけた。丸首のプリントティーシャツだ。何が珍かって、これがとんでもなくダサいのである。白地の中心に不細工な水鼠が飛んでいる。何か言葉を叫んでいる。奇抜さばかり重視した趣味の悪いデザインだ、きっと注目を引くだろう。その『怒髪衝天』――文字の読めないタケヒロに、意味はさっぱり分からないが――ティーシャツを、洗濯物の山から引き摺り出す。ばさりと広げてみた。自分が着ればワンピースの出来上がりだろう、さすがは大男の私物である。
「かわいいだろう、それ」
 歯を磨きながらうろついているグレンは満面の笑顔を見せる。マジかよ。少年は顔を渋めた。
「冗談きついわ」
「トウヤの土産だ、確か今年の夏の。あいつのとち狂った土産物センス、結構好きでな」
 いまだ着用しているポッポ行進ティーシャツをちらりと見て、納得しかけた自分が憎い。
「いや尖りすぎだろ……」
「着てやりたいんだが、あいつサイズを吟味せんから」
「着たいのかよ絶対着るなよ」
「せっかく貰ったしなあ」
「お前別にヘンな格好しねえじゃん」
「着れりゃ何でもいいんだよ、何でも似合っちまうからな。がはは」
 男の奔放な伸びやかさは、いつも調子を狂わせる。片付けてもらって悪いな坊主、と笑いながらグレンは洗面台へ引っ込んでいった。
 掛布団を畳んで寄せ、服を分類して積み重ねる。床に転がるかぴかぴの弁当殻を摘み上げながら、全力で眉根を寄せた。心底一緒に暮らしたくない。こまめに掃除しろよと毒づきたいところだが、丸一日以上世話になった身、恩を返さなければ気も済まなかった。小汚い路上に住んでいる気高い捨て子の心根は、意外と綺麗好きなのだ。
 絡みあったしわくちゃの服を引っ張り出すと、何かがコロコロと足元に転がってきた。膝に当たって静止した円筒系へ、少年は目を留める。褐色の小瓶。蓋はどこかへ消えてしまっていた。昨晩を思い出すと、右のポケットがずんと重くなる。無意識のうちに、タケヒロはそれを撫でていた。
 髪を雑に整えながら戻ってきたグレンが、子供の視線の先を見、立ち止まる。
「坊主、作戦決行は」
 何の気ない声だが、先程までの朗らかな雰囲気は薄らいでいた。タケヒロは顔を見もしなかった。
「今日行く」
「上手くいくと思うなよ。何もしとらんのだ、お前は」
「……やってみなきゃ分かんねえだろ」
 凄んでみせる虚勢の背後で、グレンは呆れ気味の失笑を浮かべる。
「まあ、せいぜい、足掻いてみろ」
 床に投げられていた鞄を掴む。鍵だけ置いて先に外出しかけたグレンは、けれど戸を開けたまま振り向いた。
 せっせと服を畳むタケヒロと、その先のベッドを、しばらく見つめた。
「……トウヤには、話すのか?」
「あ?」
 洗濯物を置いて、少年は面を上げる。寒いくらいの風が吹き込んでいた。逆光のせいで表情までは見えなかった。だが、その名を出した男の声は、威勢のよすぎる普段の声質からは、すっかりかけ離れてしまっていた。ひらひらと形を変える上着のシルエットが、彼の屈強な輪郭を揺らげている。昨日の晩、少し奇妙だったグレンの様子を、タケヒロは思い出していた。
「当たり前だろ。お前にできねえことを俺がやってやるから見てろ、っつって宣言して、ぎゃふんと言わせてやるんだ」
 その痛快な光景を思い描いて、息巻く少年に。ゆっくりと横に首を振って、男は口を開いた――





「……どうして?」
 トウヤに会った時も、ミソラに会った時も。二人に同じことを問われ、タケヒロは二人へまったく同じに、ふんぞり返って答えるのだった。
「俺もさ、ポケモンバトルに興味が沸いてきてな? せっかくだからミソラの試合を、観戦してやろう、っつー訳だよ!」
 呼応するように二羽のポッポが、少年の肩でバタバタと羽ばたく。はぁ、と生返事だったトウヤとは対照的に、ミソラは目を輝かせた。
「――嬉しいっ!」
 秋の日、昼間、曇天の下。ココウスタジアム、トレーナー控室前だ。また別の子供を、と視線を集めていたトウヤとタケヒロは、ミソラを交えてからは尚更目立っていた。子連れが板についてるぞ。通りすがりに茶化されてトウヤは浅く溜め息を吐くが、ミソラはお構いなしに少し背の高い友人に飛びついて、キャッキャと笑い声を立てている。華やかな声色はどこまでも場違いに、無機質な廊下に響き渡る。
「あーそっか、よかった。タケヒロともポケモンの話が出来たらなって思ってたんだ。最近ずっとポケモンの稽古してて、遊んであげられなかったでしょ」
「俺が遊んでもらってるみたいな言い方すんなよ」
「僕、タケヒロの師匠になってあげるね!」
 バトルなら任せて、とブイサインを見せる友人に、タケヒロは気圧され気味だ。代わりに翼を振って返事をしたのは彼のポケモン達だった。
 スタジアムの外を困り顔でうろついていたタケヒロを拾ったのはトウヤで、字の書けないタケヒロの代わりに選手登録台帳へ記帳したのもトウヤだ。ピエロとして名が通っているタケヒロは女番とも顔馴染みだったが、その台帳を確認するや「お前苗字があったのか」と目を丸くされたのには驚いた。何と書いたのか散々問い質したがトウヤは答えなかった。一昨日の晩や、昨日こてっと潰れた姿へ湧きかけていた親しみは、ものの一瞬で掻き消えた。
 のっそりと後ろを付いてきていたハリの手には、弁当袋がぶら下がっている。それを見、またにやっと笑みを浮かべて、ミソラはトウヤへ顔を上げた。
「遅いですよ、お師匠様。私もう七連勝もしたんですよ」
「今の間にか? それは凄いな。僕の弟子とは」一瞬、言葉に詰まったトウヤは、へらと口の端を歪めて従者と目を合わせた。「……とても思えない。なあ、ハリ」
「リナが強いんですよ。あと、教え方が良いんです」
 とろりと、頬が蕩ける。話すにつれ甘くなっていく声も表情も、ゴロツキや荒れ者に混じって軽く七戦こなす人物像にはそぐわなかった。
 スタジアムという娯楽場は、ポケモンを無闇に傷つけ喜ぶ人間のクズの溜まり場だ。そこへ出入りする者にタケヒロは激しい嫌悪を抱いていて、けれどもこの場所で見る友人の様子は、今のところ普段とそう変わらない。ちらりと隣を見上げれば、相変わらず苦笑いが見え隠れするトウヤも、いつも通りと言う他にない。
「将来はポケモンマスターだな」
「ポケモンマスターとは?」
「平たく言えば、『世界で一番ポケモンが強い人』ってところだ」
 選手の控室らしい部屋には既に何人かが居座っていた。柄の悪そうな雰囲気に萎縮しかけるタケヒロを置いて、二人は平然と踏み入っていく。
「おう、友達を連れてきたのか」
「はい! タケヒロって言うんです」
「大通りのピエロのガキだろ? 有名人じゃねえか」
 いかにもスラムにたむろしていそうなヤニに汚れた若者たちと、タケヒロが知っている通りのミソラがにこやかに会話している。眉間に皺が寄っていくのを、タケヒロは止められなかった。知らない部分を見せてくれた方が、まだ受け入れられそうなものを。
 トウヤの隣にすとんとミソラが腰かけて、タケヒロはその向かいのベンチに座った。将来かあ。足をぶらつかせるミソラの頭上で、バトルフィールドを映したモニターが輝いている。時折遠い音と、微かな振動がベンチを震わせる。呑気に首を捻っているミソラ、ハリから弁当箱を受け取るトウヤの日常さと、すぐ近くで戦闘が行われているという危なっかしさ。タケヒロはその間で、綱渡りでもしているような気分だった。
「私、今は目的を達成するためだけにバトルの勉強をしているので、ポケモンマスターになりたいっていうのは……違うかな」
「バトルが楽しいとは思わないか」
 浮かない表情の友をよそに、にい、と歯を剥いて、ミソラはあどけない笑顔を浮かべた。
「そうですね、だんだん楽しくなってきました。バトルもそうだけど、ポケモンが好きなのかな。世界一ほど強くなれなくても、ポケモン関係の仕事をするのはいいかもしれないですね」
「例えば?」
「うーん……」
 ハリからトウヤと同じ弁当箱を受け取りながら、仕事、とぼやく。二人の注目を浴びながらたっぷりの空白を取り、また首を傾げる。それを見ていると、なんだか拍子抜けの感覚に、少年は浸食されていく。バトル好きの野蛮ばかり出入りするといえ、普段の遊び場とそう離れた場所でもないのだ。自分は慣れてもいいのだろうか。
「……うーん」
「……一番身近な大人の職業が『すねかじり』だもんな、そりゃ分かんねえよな」
「黙らっしゃい」
「確かに……。お師匠様ってどうして仕事されてないんですか?」
「なんでだろうな……」「聞いてやるなよ」
 ひっひっと傍聴者たちが笑うのに紛れて、ハリが鼻を鳴らした。背後の連中へ「家に金入れてるんだからいいだろ」と苦しい弁明をするトウヤをミソラはけらけら笑ったし、タケヒロもつられて笑ってしまった。
 緩みそうになる頭を、肩に乗ったポッポのツーが嘴でコツコツと叩く。いけね。きりと姿勢を正すタケヒロの横で、ミソラはだらんと足を投げ出しているが。
「そういえばグレンさんは仕事してるのかな」
「してるんじゃね? 今朝も仕事があるっつって出ていったし」
 ぽすんと隣にハリが座る。笠の影を差す大きな瞳が、ギョロッとこちらを捉える。何故か咎められたような気分になって、タケヒロは少し身を引いた。
「……あいつ、どんな仕事してるんだろな?」
 ハリの目が据わる。雄弁だ。タケヒロは唾を呑んだ。あれ、俺、なんで怒られてるんだ?
 どんな仕事してるんだろうな、とちょっぴり弁当を開けながら、トウヤはオウム返しに呟いた。え、知らないんですか。身を乗り出すのはミソラ。当然のように男は頷いた。
「友達なのに……?」
「気にならねえの?」
 中身を見られた弁当の蓋が、ことんと閉まる。ハリのなんとなく厳しい目が今度はそっちを捉えた。それを意に介する様子もなく、トウヤは包みを戻して、袋の中へ元通りにしまいこんだ。
「だって惨めだろ。僕はうちの手伝いしかしてないのに」
「は?」「あ、あー……」
「……あの、いや実は……聞いてみたこともあるんだが」
 少し歯切れが悪くなる。爪先を組み替えて、視線はモニターの方へと逃げ出した。
「はぐらかされてな。でもまあ、喋りたくないなら、いいかと思って。それっきりだ」
 友達だと思ってるのは、俺だけかもしれんなあ。
 昨日のらしくないグレンの声が蘇って、タケヒロはちらとミソラに目を合わせた。ミソラも同じことを思い出しているだろう。前の男の左頬。赤黒いトウヤの痣。あれがどうしてああなったのか、それさえ聞いたことがないと、投げやりに男は言っていたが。肝心な話をしていないのは、どうもトウヤだけではないようだ。
 うねるような轟きが低く長くベンチを揺らす。硝煙の流れた後、モニターの中のフィールドにはポケモンが倒れていた。ぐったりと横たわる姿を見て、物騒な場所にいることにまた気付かされる。陰湿で不純な空気が凝固して、粘着質の泥になって、喉奥にへばりつこうとしている。唾を飲み込めばどろどろと内へ流れ落ち、心を汚す不快な泥。
 喋りたくないなら、いいかと思って、か。
 ……そんな彼を、今こそ否定しなければならないという気持ちが、少年をせっつきはじめた。
「なんか、お前らってさ、もっと話とかした方がいいんじゃねえか?」
 試合の経過を見届けたトウヤが、きょとんとして少年へ振り返った。
「ミソラに話せないことなんか、ひとつもないぜ。俺は」
「あは、本当に?」
 小首を傾げ頬を弛める年下の友人に、少年は頷く。友達っていうのは、そもそもそういうもののはずだ。信じているから、話ができる。話せないことがあるというのは、信頼していないと言うことに他ならない。ミソラだってそうだし、タケヒロにとっては両肩のポッポ達だって、そういうかけがえのない存在に当たる。
 タケヒロの言葉を吟味するようにトウヤは少しだけ閉口したが、やがてうっすらと破顔した。
「眩しいな、お前たちは」
 そんなことを言った。二人が目を瞬かせる間に、何かアナウンスが流れ始めた。室内の人々がばらばらと動き出す。トウヤも立ち上がって、二人を置いて歩いていく。
 ……眩しい。自分たちの友情が。
「眩しい」
 ミソラがぽつんと言った。よく晴れた空色の湖面が、まっすぐにタケヒロを映した。その曇りなさが急にこっ恥ずかしくなって、タケヒロはふいと目を逸らした。
 『みー』、とミソラが呼ばれたのは、トレーナー控室を出てすぐのことだった。トウヤより少し若いくらいの青年が手を振っている。ミソラは手を振りかえして一瞬は済まそうとしたが、すぐに血相を変えた。僕の試合だった。すぐさま弁当箱をタケヒロに押し付けた金髪は、くるり踵を返して駆け出した。
 と思いきや立ち止まって振り返って、慌ただしくたたらを踏みながら叫んだ。
「ちゃんと見ててくださいね、寝ないでくださいよ、絶対ですよ!」
 事が分からないタケヒロの前で、トウヤが笑う。
「こいつを観戦席に連れていく」
「ばっちりですから、今日。十戦目、覚悟しといてくださいね」
「はいはい」
「いってきます!」
 そして金髪を翻し、あっという間にカーブの向こうへ消え去ってしまった。
 ……静かになった。受け取った弁当箱を握りしめながら、タケヒロは顔を上げた。その時丁度こちらへ視線を下したトウヤとばっちり目があったのは、見透かされたようで癪だった。
「みー、って呼ばれてるんだな。昨日までは普通だったんだが。僕がついていなくてもすっかり連中に馴染んでる」
 どこか嬉しげにトウヤが言う。
「あいつ、変わったよな」
 返すタケヒロの心境は、彼の喜びと逆だった。
 きらきらと。自分たちの友情は、まだ本当に輝いているだろうか。変わらない自分を差し置いて、友人はどんどんと進化している。タケヒロとの日常が奪われたのでは決してなく、もっと別の新しい、タケヒロの知らない場所に、ミソラは新たな日常を築いた。タケヒロの含んでいる寂しさは、ミソラ視点で言うなら、ただそれだけの話なのだ。
 どう変わった。トウヤの声は穏やかで、けれど面白がるような色も少し交えていた。タケヒロは慌てて繕って腕を組んで、口を尖らせる。これ以上悟らせるのは御免だ。感傷に浸るためにわざわざここへ来たんじゃない。
「遠慮しなくなっただろ、お前に。わがまま言うことなんて、俺にはあっても、お前には全然なかったと思うけどな?」
 彼はやや面食らったようではあったが、すぐにハリと顔を見合わせて肩を竦めた。
「どうだろうな。ココウに来たばかりの頃は、駄々をこねて旅先についてこようとして、最初から図々しい奴だと思っていたが」
「あんとき最高に冷たかったよな、お前」
「干渉されるの嫌いなんだ、分かるだろ。深入りしてこない人の方が、楽に付き合えるものを」言いながら思い至ったのだろう、矢継ぎ早に続けた。「グレンなんかは、そうだな。……タケヒロの考える『友達』とは少し違うかもしれないが」
 わがまま、と言うか。逃げるように話が戻る。あのきらめきが去っていった廊下の闇の向こう側へ、トウヤは目を細めた。
「最近は、年甲斐の子供らしくなった」
 少し嬉しいと、柔らかく唇を綻ばせて、彼が言った。瞬間。
「それ」
 口をついて、勝手に出ていた。低い声だった。トウヤが見下ろす、ハリが見下ろす。身の内から、何かが沸き上がっていた。ふつふつと音を立てる、ああこれは、赤い、怒り、その澱み。
 流されちゃだめだ、言い聞かせて、振り絞った。睨むように視線を上げた。
「……本気で言ってんのか」
 音は沈んでいた。トウヤは答えなかった。一拍の間をおいて、少年から目を逸らした。行こう。すぐに試合が始まる。そう呟いて、歩きはじめた。
 数日の気候のせいか、暗い廊下は湿っぽく、時折肌が粟立つような寒ささえ覚えた。冷たい。なにか別の生き物が腹に巣食っているように、ざわついている。さまざまな感情がぐるぐると巡って、ぶくぶくと泡を吐いて、水面を波立てる。思考を濁らせる、視界を狭める。どうしていらついているのか、考えていた。けれど前を行く男の、耳の奥を撫でるような低い声も、朧な目つき、足音、猫背気味の立ち姿、醜い痣、そのすべて、その名前だってさえ、そもそも耳にするだけで苛立っていたのだ。それもつい最近までのことだ。そうだ、俺はこいつを拒絶して、悪者にして、悪いことは全部こいつのせいだと念じながら、ずっと暮らしていたじゃないか。……お前のせいだ。視線を上げる。こちらを振り向かなくなった頭は、足元に視線を落としながら、談笑する人々を避け黙々と歩き続ける。タケヒロの、やっと得た友人が変わっていってしまうこと、自分の知らない居場所を手にしてしまうこと、『みー』、それがやりたいことがあるのだということ、そう言って離れていくこと、それがやっと得た友情を、日常を破壊するのだということ。それを恐れながら、それでも行ってしまうこと、それを自分が止めにきたこと、全部が。
 お前が、不干渉が良い、深入りするのは苦手だ、その言い訳を盾にして、ミソラから逃げたから。こんなことになった。それを年甲斐の子供らしいなんて言ってしまえる無頓着さが、ミソラをこんなことにした。
 グレン。ごめん。俺、無理だ。ぎゅうと拳を握る。伸び気味の爪が、じくじくと掌に突き刺さった。
 お前。取り繕った平生が、やっと声を音にする。お前さあ。トウヤは振り向かなかった。階段をのぼる先に、歓声と光が見えていた。タケヒロの後ろからついてきているはずのハリも、何も言わなかった。それはきっと不機嫌の表れだ。タケヒロの肩にそれぞれ乗っている二羽のポッポ達も、何も言わなかった。それはきっと、主人の決意を邪魔しまいという、厚い友情の表れなのだ。
「今のミソラのこと、どう思ってんだよ」
 段の中腹で立ち止まり、彼は振り返った。
 後ろから来ていた見知らぬ人が彼らを追い越しながら、怪訝としてトウヤを見る。逆光の中、影の差した顔の中に、薄ら光る目が印象的だった。睨まれたでもないのに、恐怖じみた感覚が、刹那体を駆け抜けた。朧、ではない。無頓着でもない。双眸は、ただ硬質に思いつめて、しんとタケヒロを射抜いている。
 ハリも、ポッポ達と同じなのだと。少年はやっと理解した。







 
 
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