それとはまた別の場所で、二人の少年が話をしていた。 二人は赤いブランコに乗って、前へ後ろへ、交互に揺れている。 ぎぃこ、ぎぃこ、と怪しい音を立てるそのブランコの上が、彼らの唯一の場所だった。 「…大人は嫌い」 1人が言った。赤い帽子を深く被った、髪の短い男の子だった。 しばしの沈黙、ブランコのメッキの剥げた鎖が擦れる音だけが響く。 「僕より、偉そうな人は嫌い。僕が一番がいい」 そう呟いて、彼は足を動かすのをやめる。1人のブランコの揺れが、少しずつ小さくなってゆく。 「でも、僕がどれだけ偉くなっても、僕より偉い人は永遠にいる。僕が人間である限り、永遠に」 もう1人の少年は不思議そうな、そして少し困った顔をして、彼の話を聞いている。 「僕は、人間でいるのが嫌だ。人間といるのが嫌だ」 もう1人の方は、金色の髪を垂らしている方の彼は、少し首を傾げて黙っていた。それから顔を上げて、 「自分より弱い立場の人が全員だったら、それでいいの?」 「うん」 「周りがみんな自分のいう事を聞いてくれたら、それでいいの?」 「うん」 そして二人はだまった。黙って、片方のブランコが止まった。 もう片方のブランコは、相変わらず、ぎぃこ、ぎぃこ、と声をあげるのをやめようとはしない。 「…少なくとも、」 赤い帽子の少年は言う。 「まわりの人より、僕の方が偉かったら…僕が叩かれたり、蹴られてりすることは、もうないよ」 そういって帽子の少年は、顔を上げた。彼の目の周りは青く腫れあがっていて、痛々しい。 金髪の少年は長い間黙っていた。 「…今日はだれに?」 「父さんだよ」 少年はすぐ答えて、それからまた顔を下げた。 ブランコはもう揺れてはいない。ただ彼を乗せて、静かにぶら下がっているだけだ。 金髪の少年はブランコの上で立ち上がった。 大きくブランコは揺れはじめて、それを見ていた赤い帽子の彼も、ブランコに飛び乗る。 大きくはずみをつけて、金髪の彼が空中へ飛び出した。 鎖から手を離して地面の上に転げ落ちる。帽子の少年もそれに続いた。 主を失った二台のブランコはぐわんと揺れに揺れて、お互いに体をぶつけ合っている。 二人はごろんと砂の上に転がった。二人で顔を見合わせて笑い合う。 少年は、吹っ飛んだ帽子を取りに立ち上がった。 仰向けに寝転んだままの金髪の少年が、笑顔のまま、立ち上がった彼に声をかける。 「…シノ」 「えっ?」 「ママに聞いたんだけど、ポケモンって、ぜったいトレーナーのいう事を聞くらしいよ」 赤い帽子の少年は少し驚いた顔をして、それから少し考え込んだ顔をした。そして頷いた。 |