ポッチャマは、意外とあっさり見つかった。

私の手持ち、ヒコザルのヒリーにポッチャマを探すように言うと、
彼女はすぐに駆け出し、300メートル程先の茂みの中に突っ込んでいった。
追いかけてみると、そこにはヒリーと対峙するポッチャマ、そして、
赤い帽子の少年―――、シノがこちらを睨んでいた。

「やっぱお前だったのか…シノ」

ナローはあきれた様子で彼に近づいた。
その後ろから、のんきな顔で彼のナエトル、ナエロが様子を伺っている。

「………。」

シノは、鋭い目つきでこちらを威嚇したまま黙っていた。

「ちょっと!あんた、人のポケモン盗んどいてその態度、何様のつもりなのよ!」

いきなり噛みついてみたもののも、シノの眼力で圧されて私は身を引いた。
最初見た時も思ったけど…ちょっと、ヤバそう、この人。

「ポッチャマ返せよ…シノ。ナナカマドの野郎、めっちゃ怒ってたぞ?」

「………。」

シノは動かなかった。彼は大げさに溜息をついて、手を振った。

「もういいよ。俺もナエロがかかってるしな…。
 力ずくでも取り返してやる、いけ、ナエロ!」

ナエロは名前を呼ばれて顔を上げた。のんきな性格のポケモンだ。おいおい、とナローは振り返る。

「で、ハオネ、ナエトルってどんな技が使えんの?」

「……は?」

あっきれた…。


「カイト、ヒコザルに泡だ」

シノはいきなり言い放って、ポッチャマは素直に技の準備に入った。
仕方ない、あまりポッチャマは傷つけたくないけれど。

「ヒリー、ひっかくよ!」






僕が一生懸命吐いた“泡”は、ヒリーと呼ばれたヒコザルのひっかく攻撃で全部壊された。
悔しい。でも、頑張って勝って、シノを喜ばせるんだ!

「カイト、はたく!」

「ヒリー!もう一度ひっかく!」

全速力で近づいてくるヒリーを、僕は待ち構える。
その爪が光って僕に向いたとき、僕は引いていた手を力の限り打ち出した。

「きゃっ!」

僕の“はたく”はヒリーの顔面にヒットした。
ヒリーはひっかくを繰り出す前に僕から遠ざかる。やった!
でも喜んでいるヒマはない。ヒリーはすぐに起き上がった。

「あんた、レディの顔に傷つけるなんて、いい根性ね!」



「ちょ、ちょっと!ナローも戦いなさいよ!」

「だからナエトルって何が使えんの」

「えっ?…あ、えと、体当たりとか?」


「おし、ナエロ!体当たりだ!」

「ヒリー、睨みつけるで援護!」




「カイト、水鉄砲!」

水鉄砲!それは僕の得意技だ。
僕は思い切り空気を吸い込み、力いっぱい吐き出した。
よたよたと向かってきていたナエロと、その後ろで凄みを利かしていたヒリーを一気に押し流す。

「ウソッ、強い!」

「だってシノっていっつも一人でポケモンの本読んでたからなぁ」


「カイト、もう一度水鉄砲だ!」

「うわぁ、ヒリー避けて!」

「ナエロ体当たりだ!」

「バカ、なにこの期に及んで体当たりなんて、“からにこもる”よ早く!」

「じゃあからにこもるで」

僕はもう一度水流を吐き出した。




ヒリーは横に飛んで避け、からにこもったナエロに、僕の得意技が命中した。
クリーンヒットだったけど、ナエロは少し押し流されただけだった。

「ちょっとポッチャマ!あなた、なんでそいつの命令聞いてるのよ!」

甲高い声で叫んだのはヒリーだった。“睨みつける”みたいな怖い形相でこちらを見ている。

「そいつがなにしたか、あなた分かってないでしょ!
 そいつ、あなたを盗んだのよ!ガンコジジィ博士の研究所から、あなたを盗んだの!」

「そんなの嘘だ!」僕は叫んだ。

「嘘じゃないわよ、ヒリーたち、あなたを取り返しにわざわざ来たの!
 早く一緒に帰りましょう、ポッチャマ!」

「僕はカイトだ!」

そう言うと、ヒリーは怯んだ。


「…何、喧嘩してるのか?」

「きっとヒリーが説得してるのよ!ちょっと黙っててよ!」


「………。」


「…あなた…それ、本当の名前じゃないわ。
 トレーナーでもない人につけられたニックネームなんて、本当じゃないもの!」

「シノは、僕のトレーナーだ!」

「嘘よ!あなた、あいつに騙されてるのよ!あいつは悪いやつよ!ヒリーには分かる!」

「僕のトレーナーをわるくいうなぁっ!」

僕は水鉄砲を繰り出した。

「ヒリー!」

ヒリーの飼い主の悲鳴の中、彼女は水流に飲み込まれた。






「ちょ、ちょっと、もう…。カンベンしてよぉ…。」

彼女は立ち上がった。

「あなた、分かってる?あいつは、あなたのことなんて、これっぽっちも好きじゃないのよ?」


…そんな。

「そんな、そんなこと…ないよ。シノは…僕のことが好きだから…」

『トレーナーもポケモンのことが大好きだから、ニックネームをつけるのよ』

「だから…僕にカイトって名前をつけたんだ…。」


「………。」

ヒリーは押し黙った。


僕らの後ろで黙っていたナエロが、おもむろに口を開いた。

「ポケモンのことが好きじゃなかったら、そんな素敵なニックネームつけられないよね」


「…ちょ、ちょっと、ナエロ!あなた、どっちの味方なのよ!」

「そりゃあ僕は飼い主さん方の味方だけど…」

ナエロは呟くように言う。

「でも…僕は、カイトはやっぱり、シノくんのポケモンで正しいんじゃないかと思うんだ」

「…なんでよ?」


「だって、シノくんはカイトが大好きだし、カイトはシノくんが大好きだし、
 ポケモンとトレーナーってそれでいいと思うから」



『なんで、トレーナーの言う事を何でも聞くの?』

『それはね、

 ポケモンは、トレーナーのことが大好きだから』






「………。」

ヒリーは目をまんまるく開いて、しばらく固まっていた。

そして、何か考え込んで、そして顔を上げる。

「そうね…。ヒリーも、ハオネちゃんのことが大好きよ」

「僕も、ナローのことが大好きだよ」

「僕も、シノが大好き」


「うん!やっぱり、あなたとシノを離れ離れにさせるべきじゃないわよね!」
ヒリーは急に大声を上げた。トレーナーたちもじっと見ている。

「二人を、どこか遠くへ逃がしましょう!」

「でも、どうやってそのことをナローたちに伝えるかなぁ」

「そ、そうよね…。」


それから、「いい考えがあるわ!」ヒリーは叫んで、ハオネの足元へと駆け寄った。

「お、話し合い終わったみたいだぞ」

「なになに?ヒリー」


「ちょっと見ててよ!」

そういってヒリーは自信満々の笑顔を見せた。





「なになに?ヒリー」

ヒリーは「ちょっと見ててよ!」とでも言わんばかりに、私の足元にお絵かきを始めた。
まったくこんな時に…止めさせようとすると、

「待てよ、ハオネ。こいつ何か伝えようとしてるのかもよ」
ナローに制止された。なんというか、こいつに言われるのはむかつく…けど、ごもっともだ。


ヒリーは指で懸命に土を掘り、絵を完成させた。
私にしゃがむように促し、私の隣でナローが絵を覗き込む。
ポケモンたちが集まってきて、外でシノは黙ってみていた。


ヒリーは二つの絵を描いていた。二つとも私にはなんだかよく分からない。
ヒリーの指が一つの絵に伸び、それから彼女はポッチャマを指差した。

「これ、ポッチャマってこと?」ナローが呟く。返事は返さない。

そして、もう一方の絵を指差し、続けて向こうを指差した。
その先には、あっけにとられて立ち尽くしているシノの姿。

「シノってことか?」もう一度ナローがいって、なぁ、と私に返事を求めた。

「そうみたい、ね」



ヒリーは私たちが理解したことを察して、もう一度注意を促す。
そして、その絵と絵の間に、何かを書き加えた。それは…私にもわかる。


それは間違いなく「ハート」だった。


「………。」

私たちは息をのんだ。何も言えなくなった。
ヒリーは、私たちの顔を不安そうに見上げた。



「…そんな…でも…。」

ハオネは、難しい顔をして首を振った。
僕は悲しくなった。ヒリーが伝えようとしてくれた僕の思いは、彼女には届かなかった。


ヒリーも悔しそうな顔を浮かべ、ハオネを一度見て、そして僕を見た。
そして――――笑顔を見せた。



「行きなさい!」

ヒリーは叫んだ。


「早く!行くの、“カイト”!シノのところへ、そんで逃げるの!死ぬまで逃げて!
 あなた、シノといたいんでしょ!だったら逃げるの!早く早く早く!」

「ヒリーの気が変わらないうちにぃ」

ナエロも言った。僕は振り返った。
立ち尽くしている僕のトレーナーのズボンすそを掴んで、無我夢中で駆けだした。
シノも何が何だか分からない顔でついてきた。


「待って!」

ハオネの声だった。シノは立ち止った。僕も振り返った。





「待って!」

私は叫んでいた。

俯いたまま叫んだ私を、変なものでも見るかのようにナローは見た。そしてシノも。


「…わたし、本当はコンテストに出たいの」

えっ?ナローが言った。お前、ナナカマドは、リーグに出たいんだって。

「違うの…。本当は、ヒリーと一緒に、コンテストに出たかった…。」

ヒリーは私を見上げた。ヒリーにさえそのことは言ってなかった。

周りがみんな、「コンテストなんて邪道」なんていうから。…ヒリーを傷つけるかな、と思って。

「私…ポッチャマを連れて帰れば、旅に出れるの。
 そしたらナナカマド博士からも解放されて、コンテストにも出れるかなって。
 でも、あの博士の事だから、そんなの許さないんだろうな…」

私は立ち上がった。つられてナローも立ち上がる。

「…私たち、大人の言いなりにならなきゃいけないなんて、そんなことないのよ」

は?ナローは顔じゅうに疑問符を並べて、ポケモンたちは私たちを不思議そうに見上げた。

「私も、シノと一緒に逃げる」


「…は?」

「………。」

そこにいた全員が固まって、私はもう一度言った。

「私も、シノと一緒に逃げてやる!あんなところもう戻るもんか!

 ね、ナローも行くでしょ!?どうせポッチャマ取り返せないんだから、ナエロ取り上げられるのよ!?」

「そ、それは嫌だな」

「でしょ!だからみんなで行こう!みんなで逃亡者しましょうよ!赤信号もみんなで渡れば怖くないわ!」

拳を突き上げた私に、ナロー以下顔をひきつらせた。

「お前…いいのか?俺はてっきり、お前優等生タイプなのかと」

「いいのよだって、私たち、子供なんだから!」


はい、行く行く!そして私はナローの背中を押して、そしてシノの背中を押した。

「えっ?本気か?…マジでいくのか?」

「…お、俺は…まあいいけど。よく分からんけど」

振り向いてヒリーを見た。唖然としている。私は立ち止って、とびきりの笑顔を向けた。

「ヒリー!私とコンテスト出ましょう!」

するとヒリーは嬉しそうに笑った。
「気がした」じゃない。笑ったのだ。私には分かる。



「…なんだかわかんないけど、ヒリーコンテストに出るのね?」

「そうみたいだねぇ」

「まぁ、コンテストもカッコイイからなんでもいいわ」

「どうなったの?なんで一緒に旅するの?」

「さあねぇ」




「ま、シノといっしょならなんでもいいか」

「ほんとよ」

「ほんとにねぇ」










無理やりな最後を迎えたのはこれが拍手お礼の文章だからです。理由になってない?気にすんな(こら
ネコていとくの前身である「月面着陸」時代から拍手で連載していた「BIGIN」ですが、
もし拍手ですべて読みましたという方がいらっしゃったら…もう感激で涙が止まりません(

まぁ途中まで人間中心で動いていたのに、
最後の最後にポケモン達が活躍して万事解決(してないし;)というのはなんだか気が引けましたが…

書きたかったのは「ポケモンとトレーナー」の私なりの解釈と、
「子供だったらなんでもやっちゃえよ!」という私なりの反抗心であります。
なんとなく彼らのめちゃっぷりが伝わったらそれでヨシとします。
というかナナカマド博士が自分あんまり好きじゃないんです。
だからナナカマドに反抗してみました。ナナカマドスキーさん、関係者各位様すいませんごめんなさい。
なんとなく。オーキド博士もあんまり好きじゃないですが…なんかポケモン批判してるみたいですいません(
ウツギ博士はもう尊敬して止まないのですがねぇ。

終わります(    読んでくださってありがとうございました;


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