「せんせ! 大変だぁ、せんせぇ!」


職員室に飛び込んできた生徒の話を聞いて、僕は耳を疑った。






  first scene 染










「綿が降ってるだって?」


生徒に手を引かれて階段を駆け上がった。
吹きさらしの廊下が見える。
たくさんの子供たちが、つま先立ちし、懸命に首をのばして外の様子を窺っていた。


普段の昼休みと言えば、クーラーの効いている涼しい教室の中にいる生徒が大半である。
しかも、普通ならまだ弁当を食べている時間だ。


「どうしたんだよ、みんな」

「せんせぇ」

「先生、空から何かが落ちてくる!」


興奮気味で彼らは僕の腕をとり、ぐいぐいと校庭が見下ろせる位置まで引っ張った。
そこまでいかずとも、肌寒いほど冷え切った空気に、僕は異常を感じていた。


落ちそうなほどに身を乗り出している男子を制して、僕は校庭へと目を向けた。


4時間目までは晴れ渡っていたのに、今はどんよりと厚い雲が覆っている空。
先程まで生き生きとして見えていたのに、どこか身を縮めているに見える森。
いつもならまだしんとしている時間なのに、気の早い子供たちが歓声を上げている校庭。


その校庭に、はらはらと落ちるものがあった。


「せんせ、綿だよね」


職員室まで呼びにきた生徒が、目を輝かせて尋ねてきた。
僕はその光景が信じられず、目を見開いて固まっていた。



「先生、一緒に校庭にいこぉ」



何人かの生徒が再び腕を引っ張って、されるがままに僕は校庭へと駆け出た。



あまりの興奮に上履きを履き替えることも忘れた生徒達で、校庭はすでに混沌としていた。
僕の腕を引いてきた生徒達も、それらに混じって歓声を上げはじめる。




僕は茫然と空を見上げた。





鉛色の空から、“綿”が、ゆっくりとゆっくりと落ちてくる。

ふわっとしたやわらかな白いものが、走り回る小さな背中へ、温かな掌へと吸い込まれていく。



「なんで」



そんな言葉しか出なかった。




「先生、これあれでしょ」

6年生の女子がやってきて、ぼうっと空を見上げている僕の背中をつついた。



唇に舞い降りた”綿”を、僕はそっと舐めとる。

冷たくて、触れた刹那にさらりと溶けた。




……これは、



「“雪”ってやつでしょ、授業でやった」




雪。




まさにその通りだった。

日光に焼かれた砂へ、半袖で大きく露出した生徒たちの腕へ、痛みにも似た冷たさで降り注ぐ、その真っ白な塊は。



「でも、なんで? “雪”って、氷なんでしょ?」

「なんで夏にふってんの?先生、理科の先生じゃん、教えてよぉ」



僕は彼女らの顔を見た。

寒さで赤く頬を染めて、3年生の彼と同じように、目を嬉しそうに輝かせている。


「わからない……」


「えーっ、先生にもわかんないの」

騒ぎを聞きつけた先生たちが、校庭へと飛んできた。
慌てて生徒たちを連れ戻そうとして、はしゃぐ子供たちを追いかけている。


<校庭に出ている生徒は、すぐに校舎へ入りなさい……>


放送室のマイクを通して、教頭の声が校庭に響いた。

子供たちの歓声はやまず、僕も彼らを連れ戻そうと視線を動かした時だった。





校庭に突風が起こった。





猛烈な風に乗って、雪の塊が僕らを叩いた。


子供たちの悲鳴が響き渡った。

あれほどはしゃいでいた子供たちが、一斉に校舎へと走り出した。



僕は悲鳴の正体を知らなかった。

生徒の背中を押し、自身も校舎へと避難しようとしたときだった。



ぞくりとするほどの感覚に、僕は校庭へと振り返った。



吹雪の中、竜巻のような荒らしの中心に、大きな影があった。






つららのようにとがった爪。

氷のように透き通った翼。

優雅に舞いおどるつややかな尾羽。

妖光を放つ赤い瞳。




美しい鳥だった。



僕はそれに釘付けになった。
一瞬痛さを忘れた。





鳥は真紅の瞳でこちらを見据えた。





と、大きく翼をひるがえして、きらめきながら山の向こうへと飛び去った。





怪鳥が先導するように、吹雪はどこかへ消えた。
とっくに予鈴は鳴り終わっているのに、学校中がしんと静まり返っていた。



何もなかったかのように、また燃えるような日差しが校庭を照らし始めた。



僕以外、誰もいなくなった校庭に、取り残された雪の粒が一つ、落ちた。

瞬きをする間にそれは溶け去って、小さな染を残した。



やがてそれも、消えた。






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ポケモン徹底攻略様(リンクから飛べます)みんなでトーク板・ポケモンノベル総合案内スレ
練習用お題「とりポケモン 学校 雪」より
11・25

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余計に説明すると痛いので何も言いません(



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